木造建築遺産のオーセンティシティゼミ
木造遺産の継承手法と真正性を包括的に捉え、新しい保存論を提示。
世界各国のあらゆる木造建築遺産を対象に、オーセンティシティ概念を軸にそれらの持つ本質的価値や維持継承に関する多様な特性を捉え、新たな遺産保存の枠組みを提示することを目的に活動を実施しています。
オーセンティシティとは日本語で真正性、真実性と訳される用語で、文化遺産の保存分野で注目され続けてきた概念です。世界遺産条約に用いられた当初は、世界遺産リストに記載される遺産が本物であるかどうかを判定する指標として使用されていました。当時はヨーロッパの組積造の建築を対象にその概念が形成されてきたため、木造建築への適用は難しいものがありました。そうした中で1994年に「オーセンティシティに関する奈良文書」が発表され、その適用範囲が大きく広げられることとなりました。
しかしながら、依然として木造建築遺産を完全にその枠組みの中に入れることはできていないと言えます。木造建築遺産の特徴として、部材の腐朽や折損により部材の更新が避けられないことや、火災等で失われやすいことが挙げられます。この特徴のため、世界各地の木造建築文化圏では多様な継承のための手法が生み出されてきました。それらは、日本における解体修理を筆頭に、移築、再建、復元、写し、周期的な建替え、仮設などが挙げられます。これらの伝統的かつ固有の文化に基づく独特な継承手法は、部材の更新がほとんど不要な組積造建築を中心として形成、発展してきた従来のオーセンティシティ概念では捉えきれない側面を有していると言えます。
そこで本ゼミで、これらのような木造建築遺産の特性を正面から捉え直し、そのオーセンティシティの様相を包括的に捉えることで、新しい遺産保存の枠組みを提示することを目指して活動を行っております。
運営方法
今年度のゼミは、清水教授、マルティネス准教授を中心とした研究室のメンバーで隔週に実施しています。毎回特定の木造建築遺産で、その遺産の持つオーセンティシティの理解について課題を呈するような事例を取り上げ、その概要と保存状態、現状の分析等から、どのようにそのオーセンティシティが理解されうるかについて熱く議論を交わしております。
また、一昨年度及び昨年度には松井角平記念財団研究助成「木造建築遺産におけるオーセンティシティに関する研究」(研究代表者アレハンドロ・マルティネス)を受けて事例調査報告書を刊行しており、木造建築遺産独自のオーセンティシティ理解の枠組みを構築するための継続的な研究を進めております。
研究業績
令和6年度に本ゼミで取り上げた事例とその事例に関する議論をまとめた報告書です。伊勢神宮や錦帯橋をはじめとする、オーセンティシティの保持が問題として取り上げられる主要な木造建築遺産を収集・分析し、それらのオーセンティシティがいかに理解されうるかについての考察を行いました。
令和7年度に本ゼミで取り上げた事例とその事例に関する議論をまとめた報告書です。本書内では、木造建築遺産固有のオーセンティシティの様相について、体系化を試みております。特に、前年度では取り上げることの少なかった海外の事例や、建築に限らない木造構造物などにも分析対象を広げ、あらゆる角度から木造遺産の特性を明らかにすることに挑みました。